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410 :影響を受ける人:2014/05/16(金) 23 53 05 いないみたいだな・・・投稿しよう。 以前作った魔改造ルーデルネタと、 スレにて出ていたベネットネタ。 アイマスは良く知らないが、噂の双葉杏をウィッチにしてみました。 某所某日。 ある部隊が入っている建物を目指して歩く一人の少女がいた。 服装は扶桑国の様であるが・・・なんというか、ものすごくだらしなく見える。 「なんでアッシが、こんな辺鄙ところに・・・」 彼女の名前は 双葉杏 年齢■■歳「秘密だ。」 使い魔:日本ウサギ。 元々怠け者だった彼女は、両親に「根性を鍛えて貰え!」と言われ、強制的に導術士学校に入学させられた。 なまじウィッチの要素があったのが運の尽きと言えよう。 文句を言いつつも、一応それなり成績を残したのは微妙に人が良から。 最も、サボり癖は全く治らず。むしろ巧妙になってしまい、担任も困り果ててしまった。 しかし諦めきれない両親はそのまま軍隊に入れる。 「ヘタレた性根を叩き直せ!」と言う有り難いお言葉つきで。 最もそれで治れば苦労はしない。 軍生活は厳しく、なかなかサボれなかったのだが・・・慣れてくると何かしら理由をつけて避ける様になってしまった。 イメージはゲ○トの伊丹耀〇のような感じである。 変に実力があるので軍でも困ってしまったが、「厳しい所に派遣してしまえ。」と言う声に派遣が決定してしまった。 「畜生・・・隊長の賭けに乗るんじゃなかった。」 ブツブツ言いながら建物にたどり着くと、溜息を一つして顔をキリリと整える。 とても先ほどまでだらしなく歩いていた人物だとは思えない。 普段からこうだといいのに。「やかましい!」 外見を『私出来ます』と言う風に見繕い、建物内に入る。 中は意外と静かで・・・ 「爆弾の資料はどこ?」 「それならあっち。それより弾薬の勘定が合わないけどどうしよう・・・」 「隊長のせいでしょ。また「分割してくれ」って言うと思うから誤魔化しておいて。」 「その隊長はどこだ!!」 「副隊長、つい先ほど、友軍から援護要請があって、飛んで行ってしまいました。」 「その報告がなぜ私に来ない!」 「え? だって、他のストライカー整備中で飛べませんよ?」 「報告くらい寄越せ!!」 「副隊長・・・前回の敵撃破数少なくしないと、皆エースになっちゃやいます。」 「・・・削れ。」 訂正、意外とにぎやかだ。 遣り取りを聞いていた杏はもう帰りたかった。 「めんどくさい、非常に・・・めんどくさい。」 ブツブツ文句を言いながら崩れてしまった顔を整え、話し声が聞こえた扉の前に立った。 そして軽くノック。 すると中の喧騒が消えて静寂がやってきた。 「失礼します・・・」 そろ~りと入ると、中にいた人の視線が集まっていた。 すこし怖気付くが、なけなしの勇気を出してはいる。 「本日付で配属となりました。扶桑国出身 双葉杏です。よろしくお願いします!」 「えっと・・・貴方が。話は聞いていたわ。ようこそ我が隊へ・・・ あいにく隊長はいないけど。」 副隊長らしき人物が握手を求めてきたので、こちらも手を差し出す。 「よろしくお願いします。」(早くサボって帰ろう。) 「ええ、よろしく。」(よしきた!帰さないわよ!!) 内心まったく違う事を考える二人。 とりあえずソファーに座っていろいろ説明を受ける。 基本的にこの部隊は地上攻撃を主体としているが、もちろんそれだけではやっていけない。 乱戦となれば自分達で防御するしかない。 その護衛の一人として呼ばれた・・・という事らしい。 411 :影響を受ける人:2014/05/16(金) 23 53 40 (うわぁ・・・予想以上に厳しそう。アッシには無理だね。) そんなことを考えていると、出入口の扉が開いた。 視線を向けると顔に傷がある女性が、ずかずかと入ってくる。 「副隊長、帰った。」 「お帰りなさい。それで戦果は?」 「うむ。大型4、中型13、小型56程だな。最近は私が戦場に出ると敵が逃げるので困る。」 (*1))) 「戦果が多すぎるから「また分割ですね。わかります。」よろしく頼むぞ。」 副隊長の肩を軽く叩いていく。 信頼してくれるのは嬉しいが、正直自重してほしいと思う。 スカーフェイスの女性、ハンナ・U・ルーデルは、扶桑国の軍服を着た少女を見て首をかしげた。 「だれだ?」 「・・・昨日お渡しした増援のウィッチです。」 杏は印象だけは良くしようと立ち上がり敬礼する。 「本日付で配属となりました。扶桑国出身 双葉杏です。よろしくお願いします!」 元気良く言ったが、内心は関わりたくないという思いでいっぱいだ。 ルーデルに関する噂は良く聞いている。 だからこそ、かかわり合いたくない。 上から下までじっくり見たルーデルは、顎に手を当てていった。 「ふむ・・・(オバサマの国のウィッチ・・・外れはあるまい)気に入ったぞ。僚機を任せる。」 「・・・はい?」 なにを言っているんだコイツは? 「聞こえなかったのか?ロッテを組むと言ったんだ。」 「え・・・ええ!」 厄介ごとを認識し、大いに驚く。 慌てて無理だと言おうとすると、副隊長が両手を包むように握って持ち上げる。 「良かったわね。隊長に気に入られて!」 「え、ちょ。」 「貴方筋がよさそうだし。隊長についていけるわ!」 「うむ、副隊長も目が良いな。はっはっ!」 「いや! アッシは!」 「私はグレールと僚機を組みます。隊長、申し訳ありませんが案内をお願いしても?」 「かまわんぞ。さぁいこう!」 「あ、ちょっ! ひ、ひぱらないで!! 皆さん助けて!」 急な展開に助けをほかの人物に求める。 「「「「「良かったですね隊長! 優秀そうな人が入って!! 私達も安心です!!!」」」」」 神も仏もいなかった。 ズルズル引きずられていくさまは、ドナドナの様にひかれていく子牛の様に見えた。 もっとも、見送る隊員たちの笑顔は綺麗な笑顔だったけれども。 それからと言うモノ、杏に心休まる日々は来なかった。 「そうだ。風邪をひいてやすもう。」 「風邪? 安心しろ。病気も直せるウィッチがウチにはいる。サァ出撃だ!」 「隠れてやり過ごす!」 「ここにいたか。サァ出撃だ!」 「怪我をしたからもう・・・」 「こんなものは怪我の内に入らない。サァ出撃だ!」 何とかサボろうと、今まで培った技術を駆使するが、ハンナには全く意味が無い。 強引に連れ出されて、出撃する毎日だ。 朝は一緒にトレーニング。(牛乳を飲んで吐いた。1月もすると慣れた。) 魔力が切れるまで出撃。(強制回復が出来る栄養剤:扶桑国製を飲んでいたら魔力量が増えて、いらなくなった。) 敵の弾幕に臆することなく突撃していく。(シールドははれるが、回避した方が早く。2月で慣れた。) お陰で隊の中で二番目に強くなってしまった 更に能力に開眼する。 412 :影響を受ける人:2014/05/16(金) 23 54 14 【加速】 触れたものを加速させる事が出来るという能力で、主にハンナについていくために使っている。 思考は早くならないが、シールドの展開や弾速が加速できるので重宝している。 だけれども・・・さらに過激に攻め始めたハンナについてくのでやっとだ。 「アッシはもう帰りたいでヤンスゥゥゥ!」 「あはははははは!!!」 そんな彼女は後に、『ハンナ・U・ルーデル最高の相棒』と称され、勇敢なウィッチの一人として称賛される。 実態は誰にも知られなかったが・・・ 以上です。 消えたけど書き直したぜ! もう眠い・・・おやすみなさい。
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『醒徒会主催新入生歓迎ハロウィンパーティーのお知らせ』そんなタイトルのメールが自分の携帯端末に送られてきたのは10月月末のハロウィンの数日前のことだった。 メールの内容も至ってシンプル。日時と集合場所そして参加する際の注意書き。ちなみに参加は個人の自由である。 そしてハロウィンの前日メールに記載された集合場所である双葉学園運動場、月は高く雲も無く漆黒の天蓋を彩るのは満天の星空の下には深夜には似つかわしくない大勢の人の姿があった。昼の雲一つ無い快晴からの放射冷却による冷え込みはとんでもなく寒い。 「くしゅんっ!」 盛大にくしゃみして帽子の中のずれた耳の位置を直しながら、眠気覚ましも兼ねて冷え冷えした夜気を肺一杯に吸い込み体内で存分に温まったところで悴む両手に吐きつける。 (こんな事なら途中でホッカイロか温かい缶コーヒーでも買っておくんだった) 心中で零しつつぐるりと見渡せば多くの人、人、人。多くは学生でその中に混じって監督のためか大人の姿もちらほら見受けられる。 面白いのは彼等の表情だ。大半が自分と同じ寒さによる不満と若干の不安と期待を織り交ぜた表情を浮かべてる中で、飛びっきりわくわくする何かを待ち望んでいるような嬉々とした表情を刻む者達がいる。恐らく前者は自分と同じ異能を認められこの学園への門を叩いた新入生(外からの中途入学組みも含む)で後者は何度かこのイベントを体験した者達だろう。 端末を開いて時刻を確認すれば時刻は深夜11時55分。もうほんの少しで日付を跨ごうがと言う頃、運動場に少女の溌剌とした声が響いた。 「新入生の諸君ようこそ双葉学園へ!我々醒徒会一同並びにこの町に生きる全ての住人は君達を歓迎する!」 拡声器越しに響き渡る鈴の音のように可憐なしかしはっきりと芯の通った声。衆目の視線の先に佇むのは双葉学園醒徒会会長藤御門御鈴その人である。 頭にネコミミを生やし体には全身をすっぽり覆う黒マント、今夜の御鈴はネコミミmode。また、脇を固める醒徒会メンバー一同も各々趣向を凝らした仮装をしていた。魔女にミイラ男にフランケンシュタイン、ただ変身してるとは言え広報担当はこの寒空の下で見てるこちらが寒くなるような全裸だったが。 「諸君も知っての通りこの学園はラルヴァを倒す異能者を育てるための学び舎だ。だが、諸君には今宵もう一つの学園の姿を知ってもらおうと思ってる」 歳に似合わぬ、それでいて堂々様になった演説を披露した後、若き生徒会会長は威厳に満ちた真剣な顔つきから年相応の無邪気な少女の笑みへと表情を一変させてカウントダウンを開始する。 「みんなーカウント行くぞー! 5ぉー!」 カウントファイブ。まだ何も起きない。会長のカウントを音頭この場にいる人間全ても声を合わせて叫ぶ。これから起きるであろうことを知る者は楽しげに、知らぬ者はとりあえず何か面白そうだからノリで叫んどく。 「4ぉーん!」 カウントフォー。変化は唐突に訪れる。カウントから間も無く場に満ちる空気が一変した。それまでの冷たいの夜の空気からまるで小春日のような暖かなものへと。 「3ぁーん!」 カウントスリー。何処からとも無く風が吹き鼻をくすぐる。いつの間にかその香りは嗅ぎなれた潮の香りではなくなっていた。 「2ぃーっ!」 カウントツー。周囲の薄闇のあちこちから響く声が耳朶を打つ。行きかう人々の雑踏のリズムが己のすぐ側で陽気に刻まれる。 「1ぃーっ!」 カウントワン。運動場のあちらこちらでゆらゆらと揺らぐ蜃気楼が現れる。その中に浮かぶのは見たこともない異国の風景。しかし、そこを闊歩するのは人間ではなく普通ならフィクションかあるいは特殊なお祭りの会場でしかお目にかかれぬであろう姿をした異形の群れ。 「Open sesame!」 ファイナルカウント。喜びを押さえ切れないといった様子の気色に満ちた少女の声が終わりを告げたとき、何も無かったはずの双葉学園の運動場にその異界は顕現した。 「何じゃこりゃぁぁあぁー!?」 誰かが往年の名スターばりの絶叫を上げた。 (ちょおぉい! 俺ってば何時の間に兎の穴に飛び込んだんですかー!? 鏡っ鏡はどこだ!? 助けてホワイトラビット!) もし声が出たならば自分も叫んでいただろう。目の前に広がる夢としか思えない光景に驚くあまり空いた口がふさがらない。まるで御伽噺の世界に潜り込んだような感覚に襲われる。 運動場中に広がるのは活気に満ち溢れた市場だった。ただし店を構えるのも商品を購入する客も全てが真っ当な人の姿をしていなかった。角があった。牙があった。爪があった。翼があった。全身を毛に覆われている者がいた。全身を鱗に覆われている者がいた。腕が多い者がいた。脚が多い者がいた。名状しがたきものがいた。全く人の原形をとどめていないものさえいた。その全てが今日ラルヴァと呼ばれる者達である。 「紳士淑女の皆々様ぁ―…ってそれほど歳イッてる奴はあんまいないわね。改めまして人間の皆々様ぁ―この度はようこそゴブリンマーケットへ」 驚きに固まる人々の頭上で子猫ほどの大きさの愛らしい少女がにこやかに歓迎の言葉を紡ぎだす。光を纏い背に負う羽を羽ばたかせて宙に浮くその姿はピーターパンの登場人物の一人妖精ティンカーベルそっくりだ。 「これより始まりまするわ今宵一夜限りの夢幻、されど努々夢と思う無かれ。我等は幻実、我等は現想、今確かにこの時代この場所でこの同じ世界であなた方と共に生きている……え~~……」 詰った。どうやら続きのセリフをド忘れしたらしい。ティンカーベルは数秒の間あーだのうーだの呻いていたが、やがて思い出すことを諦めたのかガシガシといらだたしげに髪を掻き毟り、 「あぁもうめんどくさいヤメヤメェ! やいっよく来た人間ども! 今夜はハロウィンッ年に一度の夢と欲望のカーニバル! 食って食って食って悔いも遺さず食い倒れて飲んで飲んで飲んで呑まれて明日に向かってぶっ倒れろ! 笑って踊って楽しんで! どいつもこいつもわちきと一緒にフィーバーしようぜぇ!」 それまでダース単位で被っていたネコの皮をかなぐり捨てて吠える。それが合図だった。 ドドドドン! 轟音をとどろかせながらドワーフが花火を打ち上げる。漆黒のキャンバスに大輪の花が咲き乱れ、魔女達の箒星が縦横無尽に絵筆を走らせる。それが、夢の時間の始まり。 「あははっ……」 気付けば自分も意識せぬうちに開いた口の端から笑い声の欠片が零れ落ちていた。体の奥底から湧き上がる衝動が手足を突き動かす。揺さぶられる心臓がドキドキと音を立て全身にワクワクを巡らせる。 「happy! Halloween!」 口々に魔法の呪文を口にして勢いよくコートと帽子を脱ぎ捨てる。人間は一人残らず姿を消し、今ここに現れたのは運動場を埋め尽くす一夜限りの百鬼夜行。そして自分もまたその一人。ピンと尖った犬の耳を勢いよく揺らして、怪物と現実と幻想の坩堝の中へと飛び込んでいった。 「さぁさぁさぁ! 受験生の坊ちゃん嬢ちゃん寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 受験勉強にこれ一本! 世界樹直送100%天然ミーミルの泉の湧き水だよー! 今なら何と学問の神、天神道真公の直筆サイン入りお守りもセットで販売中だー!」 「ラ~リホ~♪ ザントマンの眠り砂はこっちホー。どんな頑固な不眠症もこれ一袋で解決ホー♪」 「惚れ薬! ツンツンなあの子も即ヤンデレに! ヤンデレな彼女に愛されすぎて怖くて眠れなくなっちゃう惚れ薬! 今なら眠り砂とセットで割引サービス実施中!」 その眼前に広がるのは正に夢のような光景。何処を向いても目に映るのは自分が生まれて一度も見たことが無い摩訶不思議な品々とそれを求める人々の群れ。 「誰でも食べれば絶世の美男美女になれる黄金のリンゴはいかがっスかー! 今日の便で届いたギリシャ直送の最高級天然ものっスよー!」 「おぅそこの兄ちゃん! あんな趣味の悪い金ぴかリンゴより俺っちの育てた仙桃買いな! どんな水だろうと美味い酒に買えちまう優れものだぜぇ」 「はんっ! ンなこと言って今流行りのダンボールじゃないっスか? 何使ってるか分かったもんじゃないっス。男ならリンゴっスよリンゴ!」 「あぁん!? やんのかコラ! 魚介臭いコーカソイドがぁ!」 「上等っスよ! 大陸の猿に人並みの礼儀を教えてやるっス!」 「はいはいあんまり騒がしいんで神の裁きが通りますよー」 「うーわー見ろよ。今雷が落ちたぜ。比喩とかじゃなくて文字通りに」 だが、全身を叩きつけるような熱気と興奮がこれが夢幻の類ではないまごうことなき現実である事を告げている。 市場のあちらこちらで飛び交う威勢の良い商売文句に客の怒号に悲鳴、そしてに活気に満ちた人々の声。まるでサバトを思わせるどこもかしこも煮えくり返る混沌の釜のような賑わいぶり。あぁもうほんとに、 (楽しい! 楽しい!! 楽しい!!!) 自分の中の興奮を抑えきれない。否、今日今宵この場所このお祭り騒ぎで、ちっぽけな理性に従いせっかくの衝動を抑えるなどという真似をすることこそ馬鹿らしい。 しゅんしゅんと音を立てる錬金釜。怪しげな色の薬液を煮詰める魔女の大鍋。軒先に吊るされた良い香りのする薬草の束。広場で銀の煙をたなびかせて楽器を爪弾く人形の楽師たち。その奏でるメロディの中で共に踊る怪物とそれに扮した人間の姿。そのどれ一つして洩らさぬよう記憶に焼き付けながら子供のようにはしゃいで市場中を練り歩く。 「もーふーもーふー♪」 「にゃあぁっ!? お客さんボクは商品じゃないにゃー!? はーなーすーにゃー!」 「王様が襲われてるにゃー! これは紛れも無い侵略行為にゃ! 誰か衛兵を連れてくるにゃー!」 「チッ調子に乗って蜂蜜酒(ミード)を飲ませすぎた! いい加減離れな! 今のあんたはMarch Hare(淫乱うさぎ)じゃなくてBoogie Cat(化け猫)だろーが!」 大きな通りに面したステーキハウスの前で、頭に猫耳をつけ常の怜悧な雰囲気など微塵も感じさせないほどに蕩けた逢州等華が真っ赤な顔で王冠を被った黒猫を抱きしめ、それを引き剥がそうと必死の山口・デリンジャー・慧海とコック帽を被った猫達がギャーギャーにゃーにゃー大騒ぎを繰り広げている。 「にーくーきーうー♪」 わが世の春とばかりに幸せ一杯に更に力一杯抱きつくアイス、対する王様の全身からは何やらみしみしと鳴っちゃいけない音が聞こえ始めている。 「ぎにゃー!? せ、背骨が立てちゃいけない音を立ててるにゃー! いや肋骨ゥ」 「Oh! これが昔パパの言ってたジャパニーズRIKISHIのサバオリ!?」 「おねぇさんそのまま極めるにゃー! そうすれば次の王様はボクなのにゃー!」 どうやら獅子身中の虫が混じっているようだ。その様子に苦笑していると、ふと視界の隅に小さな人影が目に留まった。 人影の名は藤御門御鈴。双葉学園の小さな生徒会長殿が露天の店先でその整った面立ちをゆがめて悩んでいる様子で思わず気になって声をかける。 「会長? 何してるんですか?」 「ひゃぁっ! だ、誰だお主は? 知らない顔だが私に何か用事か?」 「いや用事は無いですけどちょっと何してるのか気になって。会長はお買い物ですか?」 「うむ……いやこれはべ、別にこれは何でもないぞ! こんなもの無くても私は一人前のレディーなのだからな! 別にこんなものに頼らなくたって……」 「お嬢ちゃん、トレント印の成長薬と豊胸薬どっちにするか早く決めちゃいなさいな。女が焦らすのはベッドの中の殿方相手だけで十分よん」 実にお年頃の少女らしい悩みだった。真っ赤になってうつむく会長をたっぷりとめでていると、店主と思しきリザードマンが今度はこちらに顔を向けた。 くすんだ翠の鱗と岩のような筋肉に覆われた楽に2m越えする巨躯を覆うフリルたっぷりのゴシックドレス、縦に裂けた瞳孔とその周囲を彩る紫のマスカラ、子供など一飲みに出来そうな裂けた口にひかれた乙女らしいピンクの口紅。そして止めにおねぇ口調。 その姿正にクリーチャ―。正直逃げ出したいが足がすくんで動けない。あぁこれが蛇に睨まれた蛙の気分なのか。いや目の前にいるのは蛇じゃなくて蜥蜴マンだけど。 「んー坊やも中々可愛い顔してるけど、私ってば鱗の生えてない男は恋愛対象として見れないの。ごめんなさいねぇ」 「いやむしろありがたいです! いやっほーぅツルツル卵肌サイコ―! お父さんお母さん哺乳類に生んでくれてありがとー!」 「んふふ人間もラルヴァも若い子ってば元気ねぇ。私もあと100年若ければ龍河さまと……」 ふと、それまでうなだれていた会長が己と同じ醒徒会メンバーの名が出たことが気になるのか顔をあげた。 「ん? 龍河がどうしたのだ?」 「あらヤダッ! お嬢ちゃんってあの方とお知り合いなの!? そうなのよぉあの方こそ私の憧れの王子さま☆ あの鋭い牙、鋼の如く鍛えられた筋肉とそれを覆う鱗、あぁっそのたくましい両腕で私を銀河の果てまで抱きしめて欲しい! キャッやだ言っちゃった。誰にもいえない私の乙女心♡」 懐から大事そうに取り出した一枚の写真(恐らく写真に写ってるのは彼の想い人である龍河弾その人だろう)をその分厚い胸板に擦り付けてから、はふぅと物憂げな溜息をつく秘密も何も自分からベラベラ喋っといて恥ずかしそうにイヤイヤと乙女チックに身をくねらせる恋するオカマ蜥蜴。 それを聞かされたこっちの身にもなって欲しい。まるで耳と脳がサッカリン漬けになったようにダメージは甚大。とりあえず隣できょとんとした表情を浮かべる会長の愛くるしい姿を心のハードディスクに保存することでSAN値の回復を図らせてもらう。これ以上どうにかなる前にこの異界から一刻も早く立ち去らなくては……。 「ほーら会長、あっちでマンドレイクのくじ引きやってますよー。引っこ抜いて商品名が書かれた札が出ればアタリ、ハズレが朝鮮人参で、ある意味アタリなのがマンドレイクです」 「人生をかけた勝負の景品がクラーケンのゲソ一年分では割に合わんのではないか? ってこら引っ張るな! 私はまだ薬を買ってないぞ! べ、別にこんなの全然欲しくないわけじゃないんだからな!」 「それツンデレじゃないですバレバレです会長。大丈夫、会長は今のままでも十分に可愛いですから」 「なっ!? こんなところで何を言ってる! 恥ずかしいではないか!」 「はっはっは。さぁ向こうの広場でお兄さんと一緒に人形劇でも見ましょうねー」 我ながらこのセリフは怪しすぎだと思う。何だか誘拐犯にでもなった気分である。だがこれでいい。例え後でロリコンと罵られ風紀委員からお仕置きを受けようが双葉学園に集う者達の全てのアイドルを汚させるわけにはいかない。だから、 「駄目よ駄目よ駄目よ! 龍河さまに会っちゃったら私ってば嬉しくってはしたなく卵産んじゃうッ!」 そんな店主の愛の叫びを全力で聞こえないふりをしつつ、ドサクサ紛れに会長と手を繋いでからダッシュでその場を後にした。 店が見えなくなる場所まで走り抜けてから、休憩も兼ねて二人して仲良く広場のベンチに腰掛ける。姿勢正しく浅く腰掛ける彼女に対して、自分はだらしなく腰掛けて背もたれに体重をあずけて空を仰ぎ見ていた。 そろそろえんもたけなわ。気付けば夜の帳の漆黒は朝の黎明の紫へと色を変え、あれほど輝いてた月と星の明かりも薄れ、東から顔をのぞかせ始めた太陽に主役の座を譲り渡そうとしている。 「楽しかったか?」 唐突に隣に腰掛ける会長がそう尋ねた。自分の耳に入りこむ期待と不安の入り混じった声音。それは答えを待ち望みながらそれを聞くことを恐れる矛盾を孕んだ響きで、 「疲れました。なんかとんでもなく疲れました……」 「そ、そうか……」 言葉の端端から骨の髄まで溜まった疲労が滲み出る感想を聞いて、少女はがっくりと力なく肩を落としてうなだれた。 「お嬢ちゃん元気を出すホー? 甘くて幸せになれるキャンディをどうぞホ―。ソッチのお兄さんもtrick or treat?」 「トリートで」 「どうぞホー。アムリタ味だホー」 通りすがりのジャックランタンが空中からキャンディをばらまいて飛んでいく。口に含めば口一杯に広がる優しい甘みが昨日までの疲れを癒し、今日も元気に過ごそうとする活力が沸いてくる。ところでアムリタ味って食べたら不老不死になったりしないよな? 「でも、楽しかったです。疲れたけど本当に楽しかった。今夜の事もそうだけどこの学園に入学できて本当に良かった。きっとこれからもこんな大変だけど楽しい毎日が続くんだろうなってそう思いました」 そして、またこれも嘘偽り無い自分の本心。年に一度のハロウィンの人と怪物が交錯するこの奇跡の一夜で見つけた大切なもの。 その言葉に弾かれたように会長が顔を上げてこちらを振り向いた。見下ろす自分と見上げる少女の二つの視線と視線が絡み合う。少女の瞳の中に自分の姿が宿り自分の瞳の中に少女の姿が刻まれる。やがて泣き顔一歩手前だったその顔が、蕾が綻ぶように刻一刻と移り変わりやがて花咲くような笑顔へと変わっていく。 (駄目です会長。正直言ってその上目遣いは反則です) 正直に言おう。今夜一番ドキドキしてる。だってそん所そこらのアイドルが裸足で逃げ出す美少女が自分の隣に座っていて、あまつさえ頬を赤らめて涙目でこちらをみつめているのだ.。あぁもうこれなんてギャルゲ。マジでキスする5秒前である。 (駄目だ落ち着けさすがにそれは犯罪だつーか頭に血が上りすぎてくらくらするこのままじゃ鼻から情熱のあかいパトスが飛び出るってとりあえず頭冷やさないとちょっとどこかに頭ぶつけるのにちょうど良い柱ないか柱柱柱ァ!) そんな自分の苦悩する青臭い少年の心など露とも気付かない会長はあっという間に広場へと躍り出ていた。 そして、本来相容れぬはずの人とラルヴァが共に笑顔で存在する今この時を、幸せそうにまるで宝物のように胸の奥に仕舞ってから、 「私はな、いつか世界中をこんな風にしたいのだ」 双葉学園醒徒会会長藤御門御鈴はポツリと呟いたのだ。人とラルヴァが共に生きる道を探す事。それこそが双葉学園のもう一つの役目であり彼女の思い描く夢の姿。 「会長、でもそれって……」 とても甘い考えだと思うんです。続けようとした言葉は辛うじて飲み込んだ。 人類共通の敵ラルヴァ。それが現れてもなお同族との争いを止めぬ人類。同じ人間同士でさえいがみ合っているというのに、人と全く異なる存在であるラルヴァが共存する世界など生まれえるのだろうか? 答えは限りなく不可能である。それをこの聡明な少女が分からぬはずがない。 だがしかし、それでも尚、 「諦めんよ」 少女は決意を込めてはっきりと宣言する。 「今この場所で私達はこうやって分かり合えている。夢でも幻でもなく人とラルヴァの新しい関係は今ここに確かに存在している。後はこれを世界中に広げれば良いだけだ。どうだ! 凄く簡単なことではないか!」 こちらに向かって微笑みを浮かべてそう語る少女。その磨かれたアメジスト色の瞳に宿るのは金剛石にも負けない硬く眩い意思の光。 だから自分も一片の疑心もなく信じる。この少女が本気で世界をハッピーにするつもりだという事に。そして確信する。きっと彼女はそれを成し遂げるだろうということを。 だって彼女の周りには支えてくれる者たちがいる。助けてくれる人たちがいる。信頼できる仲間達がいる。そして自分も、彼女の助けになりたいとこんなにも強く望んでいるのだから。 「だって……」 「だって……?」 最後に会長はキャンディーを加えて悪戯っぽくこう付け加えた。 「だって何時だって、乙女は甘いものが大好きなのだ♪」 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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園内にひときわ目立つ、エキゾチックな鐘楼。澄み渡った青空に、じっくりと鐘の音を響かせる。春の冷たい空気を味わいながら、遠藤雅は大学構内に足を踏み入れた。四月未明。もう少ししたら、双葉大学の入学式が執り行われる。 大学の校舎や研究塔は、さすが2000年代創立の学園だけあり、どれもガラス張りで綺麗なものである。よく磨かれた青い窓ガラスが午前の陽を反射させ、まるで建物に青空がそっくり映し出されているかのようであった。 島は東京湾の埋立地なので、ときおり海辺からの冷たい風が吹く。台場や豊洲、夢の国が近辺にある湾岸一帯だ。南の青空に、羽田へ下りる航空機を見た。 雅は校舎一号館の前で立ち止まった。一階には食堂、購買、コピースペースなどがあり、二階から先は大小さまざまな規模の教室があるという。雅がオープンキャンパスに足を運んだ、典型的な私立大学とまるで大差ない。 周りの新入生も、みんな服や鞄や髪型が、お洒落でかわいくて。 ごくごく普通のキャンパス・ライフが、これから自分を待ち受けているようにしか思えなかった。 だが、そんな呑気な展望もすぐに打ち砕かれた。 爆音。 さっき見かけた航空機が近くで墜落したのかとさえ雅は思った。 慌てふためいて周りを見る。焦って口をぱくぱくさせているのは雅だけであり、他の新入生たちは目つきを鋭くし、まずは自分たちの安全を確認していた。それと同時に、構内にサイレンがうなりだす。 「ラルヴァだと?」 「嘘でしょ? どうしてこんな時期に、それも学園に!」 「大変だ! 大講堂が、複数の上級ラルヴァに強襲されてるそうだ!」 男子学生がモバイル学生証を片手に、そう声を荒げた。それを見て雅も思い出したように、自分のモバイル学生証を開く。 普段、壁紙時計を表示しているモバイル学生証は、強制的にレーダーに切り替わっていた。双葉学園・大講堂に、三つ、四つ・・・・・・、いや、十以上も確認できる「赤い丸印」。そして瞬時に情報は更新された。「カテゴリーB」と、いくつかの赤丸にはそう英字で表示されている。 「上級がこんなにも? どういうこと? マズいじゃないの!」 「おい、大講堂って今、高等部の入学式やってんじゃねーのか?」 「よりにもよってそんなときを狙ってくるとはね」 「クソ! 外道どもめ・・・・・・!」 それまで桜並木に囲まれ、浮かれた大学生の顔をしていた彼らは、誰もが険しい顔つきをして握りこぶしを震わせていた。茶髪にキャミソールワンピースの女子大生がロケット砲を構え、ちゃらちゃらと笑っていた男子学生が怒りに震え、眉間に青白い血管を浮かび上がらせながら、髪を逆立てている。 これが、異能力者の学生か・・・・・・。 雅は敵の攻撃よりも、その光景に圧倒されていた。 双葉大学の入学式までにはまだ時間がある。彼らはそれまで通っていた学び舎と、後輩たちを襲ったラルヴァを絶対に許すわけにはいかないだろう。みんな、討伐のため現場に向かった。そんな彼らを、雅は一人立ち尽くしながら眺めていた。 その後、教師たちや有能な新入生、そして後から駆けつけた高等部在校生や、大学生たちによって、犠牲者を出すことなくラルヴァを全滅させることができたという。約一名、保健室に担ぎ込まれたらしいが。 入学式の騒動は鎮圧された。 歴史学科。 それが、雅の行くことになった学科だ。実家に届いた合格通知にそう記されていた。 「歴史って、普通にあの日本史・世界史をやればいいのか・・・・・・?」 雅はどうして自分が歴史学科なのかがわからない。高校時代の成績を振りかえり、肩を落とす。彼はせいぜい、鎌倉幕府が鎌倉にあることぐらいしかわからなかった。 一号館の小教室で、歴史学科のガイダンスは始まる。教室に入ると受付のみが設けてあって、数名の教員が座っていた。その中の一人に近づくと、学生証を出すよう指示された。 携帯電話ほどの大きさであるモバイル学生証は、トレー式のリーダーに置かれると、ピピっと電子音を出して白く点滅した。 「はい。これであなたの学生証に、今年一年の行事予定と、授業シラバスがインストールされました。以降はその学生証から、授業の履修登録をしてください。ガイダンスは以上です。帰宅してかまいません」 なんとまあ、先進的な学校である。田舎者の雅は愕然としていた。 ラルヴァの襲撃があった大講堂で、双葉大学の入学式は始まった。 本来、ガイダンスよりも先に行われる順序だったのだが、先ほどのアクシデントで急遽変更となった。予定よりもかなり遅い時間に、入学式は始まった。 応急処置でふさがれた天井の穴や、壁や床についた傷が生々しい。これで明日に中等部と小等部の入学式があるというのだから、可哀相だ。 「そんなことないよ遠藤くん。一晩もあれば学園の設備管理課が直してくれるよ」 「そんなの可能なのかい・・・・・・?」 「うん。彼らだって成人したとはいえ、この大学出身の異能者さ。一般人よりもずっと仕事は早いはずだ」 そう、メガネをかけた男子学生は言った。 与田光一。食堂で昼食をとっていたときに知り合った男だ。 きっかけは同じテーブルで、隣に座っていて、同じ「双葉学園カレーセット(大盛り・サラダ付)」を食べていて、目と目が合ったから。「学園で見ない顔だね。今年からこの島に来たの?」と声をかけられ、そこから話が進んでいった。 雅はこういう存在を待ち焦がれていた。気軽に話のできる友人ができるのは、とてもいいことだ。田舎の友達と別れ、一人上京してきて少し寂しかったのは言うまでもない。 それに、まだまだ彼にはわからないことが多すぎる。この島のこと、学園のこと、異能者のこと、ラルヴァのこと。そんな自分が、こうして気軽に頼ることのできる友達ができたのは、大きな収穫であった。雅はそう思っていた。 何故だか脳内で「この私を差し置いてどういうことよこの浮気者!」とどこかの女の子に怒鳴れた気がしたが、潔く忘れることにした。 アクシデントが重なったためか、なかなか入学式は始まらない。暇だったので、雅はしばらく与田と会話をしていた。 「遠藤くんは『スカウト』生なのかあ。いやあ、スカウトなんて都市伝説と思ってたよ。みんな小等部からか、せいぜい高等部から一般受験をしてこの学園にやってくるからね」と、与田はにこにこ言う。「テストも実技もなしに裏口入学。君はそんなにすごいやつなのか」 「いや、すごいとかすごくないとか、全然わからない。自分がどういう能力を持っているのかすら、よくわかってないんだ」 「そうなの? だいたいの異能者は、もう中学の頃には自分の能力に自覚を持つはずなんだけど」 「そんなことはなかったぞ? まあ、思い当たる節々もないことはない」 「君の能力は何なの?」 雅は少し躊躇してから、自分の能力を与田に教えた。こんな非科学的で、非常識なことを人に言うのは生まれて始めてだった。口に出すのは恥ずかしかった。 「治癒能力・・・・・・。何でも、人の怪我とか治しちゃうらしい」 「何だって?」与田の目つきが真剣なものに変わる。「怪我を治すっていうと、治癒(ヒール)能力のことか?」 「うん、俺もそんなものが使える人間だとは思ってもみなかった。でも、思い返してみれば心当たりがいっぱいある。例えば、木から落ちて骨折した友達の腕がいつの間にか治ってたり、踏み潰されて粉々になった妹の人形が直ったり。俺が手を触れただけで、なぜか怪我も物も治ってしまうことが度々あったんだ」 「人間だけでなく、物質まで応用できるのか。ますますそれはすごい能力だよ、遠藤くん・・・・・・!」 と、与田は興奮して言う。感嘆の目を向けられて、雅は反応に困ってしまう。与田はなおも、興奮してこうまくしたてた。 「治癒なんて反則的なスキルを使える異能力者なんて、めったにいない。それは世界規模での話だよ。統計が無いから鵜呑みにしちゃいけないかもだけど、治癒能力者は十年に一人出るか出ないかとまで言われているんだ。いや、もしかしたら百年に一度、かもしれないね」 「うーん。そうは言ってもなあ・・・・・・。自分自身が、そういう異能力や治癒とか、全然わかってないんだ。実際、使い方だってまったくわからないんだぜ?」 そう言いながら、雅はラルヴァとの戦闘で傷ついた床に手を触れる。 足元には抉られたような傷が走っていた。そこに手のひらを置き、元通りになるよう念じてはみるのだが、手ごたえは感じられない。むなしさだけが感じられた。「ほら、この通り」と、何も変らない床面を与田に見せ、苦笑する。 「そりゃもったいない」と、与田は言った。「ずっと一般人として暮らしてきたのだから仕方ないんだろうけど、それは僕ら異能者にとって実にもったいない話だ。遠藤くんは治癒を使いこなせるようになるべきだよ」 そう、目を輝かせて雅に言った。 それから二ヶ月が経過した。 大学生活もだいぶ慣れた。朝起きると、なぜか立浪みくが朝食を作っていて、雅はそれを食べる。そして一緒に登校する。「今日は遊んでないで早く帰ってきなさいよ!」と怒られる。 大学では「異能歴史学」を専攻している。異能の発祥、進化、分派、対立、戦争。それらは高校で習ってきた社会科の歴史よりも、よほど面白かった。 雅はふだん与田と共に行動していた。時たま、与田に「治癒を見せてほしい」とせがまれることもあったが、やはり雅は能力を使うことができなかった。身体障害を与えられた実験用マウスや、足のもがれた昆虫、壊れたテレビなど、与田の用意してきた対象を何一つ治すことはできなかった。 黒猫を助けたときや、みくを治したときの感覚を思い出そうと試みるのだが、結局、壊れたものは壊れたままであり、ネズミはずっと手のひらの中で苦しそうにもがいていた。 与田は理系畑の人間であった。絶対に雅の「治癒」をこの目で見てやると、あらゆる実験体を用意してきた。ラルヴァとの戦闘で大腿骨を折った男子高校生を目の前に運び込まれた日には、どうしたものかと頭を抱えてしまった。 「治らねーじゃねーかよ! いてえ、ちょーいてえ!」 この男子学生は保健室に運びこまれ、適切な治療がされたという。 「能力を自覚し、自由に使役するには訓練がいる。そういうタイプだっているんだ。あんなことを言った高校生の男の子だって、最初は苦労したはずだよ。遅咲きの人間ならなおさらさ。ま、始まりってものはいつだってこういうもんだよ遠藤くん」 そう、与田は雅を励ましてくれた。 雅はというと、実はさほど自分の能力に興味を持っていなかった。だから、どうでもよかった。黒猫を救ったことは誇りに思っているが、あれこれ訓練をしてまで能力を引き出そうという気にはならない たとえ「治癒」が自在に使えたとして、それがどう、ラルヴァとの戦闘に貢献できるのだろう。日常生活の助けになるのだろう。 彼は自分を過小評価していた。 昼休み、雅は散歩もかねて学園内を散策していた。 昼休みは一人になる時間である。与田はこのごろ研究室にこもりがちなため、一人で食堂に行って昼食をとったり、購買でパンを買って外で食べたりしていた。 今日は梅雨時に訪れた久々の晴天であった。雲の切れ目から覗く晴れ間に誘われて、雅はジャムパンを片手に表に出た。 いくつもある研究塔の脇を抜け、大学のエリアから出る。アスファルトは黒く湿っており、水溜りから青空が覗いていた。やがて目の前に空き地が広がった。隣にはクラブ塔が並んでいる。グローブをはめてキャッチボールをするにはいい場所だが、連日の雨で土はぬかるんでおり、誰も居なかった。 適当に腰掛けると、猫の鳴き声がいくつも近づいてきた。初め、飼い猫のアイが抜け出したのかと思った。ジャムパンを半分食べた頃には、いつのまにか足元にわらわらと、猫の群れがたむろしている。ブチ猫が雅の顔を見上げていた。 「ほんと、猫をよく見る島だねえここは」 「ああ。悪くないだろう? かわいい猫たちに囲まれて暮らす生活も」 雅がブチ猫に話しかけると、変わりに右隣から返事が来た。 見ると、長い黒髪の美少女が隣に腰掛けている。剣を二本傍らに置き、三毛猫を持ち上げていた。凛とした顔つきだが、表情はほこほこと緩んでいた。 「うん、悪くはないね。どちらかというと俺は猫のほうが好きだしね。猫は勝手なときに甘えてくれて、勝手なときに勝手なことしてくれる」 「ほほう、気が合うじゃないか。キミの言う通りだ。猫はいいものだ」 雅はひとけのない空き地で、初対面の女の子と会話を始めていた。彼女は高等部の子だろうか。一人でこんな場所で何をしているのだろうか。しかし、細かいことをあれこれ考えたくなくなるぐらい、陽射しはぽかぽかと暖かくて、つい気が緩んでしまう。 「まったくだよ。家で黒猫を飼っているけど、これがけっこうかわいい子でね」 「何?」 彼女は鋭い視線を雅に向けた。「詳しい話を聞こうか」 「ええと、ひょんなことから出会って、部屋に連れてきて、それ以来ずっと一緒。まあ色々あって、とっても好かれてるんだ。何もしてなくても膝の上に乗っかってきたり、足元でごろごろと、遊んで光線を向けてきたりするぐらい」 ごくりと、雅の話を聞きながら黒髪の美少女は唾を飲み込んだ。 「とても人懐っこいんだな。できることなら私もその子を見てみたいものだ・・・・・・!」 「おまけにどうしてか猫娘まで部屋に居ついている始末。もう少し大人しくて、口うるさくなかったら、こいつもまあまあかわいいのになあ」 「なん・・・・・・だと・・・・・・?」と、黒髪の少女は目を大きく開き、小刻みに震えだす。 「なんでも猫の力を使って戦うとかどうとか。小等部の子で、毎朝エプロン着て小さなお尻をぷりぷり向けながらにゃんにゃん鼻歌交じりに朝飯作ってくれるぞ」 「やん、かわいい」 真面目そうな少女の口から熱っぽい言葉が飛び出した。よほど猫が好きなんだなと雅は感じた。 「ま、寝坊しつつおいしい朝飯が食えるのはありがたいからね。何も文句は言えないし、あいつの好きなようにやらせてるというわけだ」 「こ、これは猫参りの巡回ルートを再考する必要があるかもしれないな。・・・・・・いや、誤解しないでほしい。これはお前が小等部のいたいけな子に何か悪さをしているのではないかと、風紀委員として懸念しているだけのことだ。黒猫、猫娘、はあー・・・・・・」 紅潮した頬に両手を当て、ため息をついている女の子をよそに、雅はモバイル手帳の時計を見る。そろそろ午後の講義が始まる時間だ。 「そろそろ俺は大学に戻るよ。雑談の相手ありがとうね」 「なんだ、キミは大学生だったのか。年上じゃないか。てっきり同年代だと思ってたぞ」 「ふん、どうせ身長165センチのチビですよ」 「いや、その、年下が馴れ馴れしく話しかけて悪かった」 「気にしないでいいよ。まだまだ友達も少なくて暇してたとこだった。じゃ、もう行くね」 「またどこかで会おう。ああそうだ、大学一年生なら、ぜひともあの問題児にこう言っておいてくれないか?」 「あの問題児?」 「『あまりハダカになって風紀を乱すな!』とな。あいつにはいつも手を焼いているんだ」 その翌日も、雅は空き地にやってきた。透明のビニール傘から雨水が間断なく滴り落ちる。空き地は灰色のもやが充満し、大きな水溜りがいくつもできていた。 関東甲信越が梅雨入りしてから、もうだいぶたった。昨日は梅雨の中休みであったが、残念なことに続かなかった。 「やっぱ、誰もいないか」 こう雨がしとしと降っていては、猫たちも、あの女の子も現れないだろう。 きびすを返して、大学に戻ろうとしたときだった。 「にゃー」 足元の白いトラ猫と目が合った。顔は丸くて、体毛は真っ白。大きな鈴を首にぶらさげ、しっぽには赤いリボンが付けられている。 誰かの飼い猫だろうか。その珍しい模様と丸顔に目が引かれた。 「変わった顔してるなお前。この島に来てからもう腐るほど猫を見てきたけど、お前のようなマヌケ顔の猫は初めてだ」 「にゃー?」 ふと、何かデジャヴのようなものを雅は感じる。 (こいつ、どこかで見たような気が・・・・・・?) そのとき、降りしきる雨音のなか、足音が近づいてきた。ぬかるんだ土を踏みしめる音。振り返ると、淡いピンク色の傘がそこにあった。 「まったく。白虎、勝手に出てはいかんとあれほど言っただろう。体が濡れると風邪引いてしまうのだぞ」 女の子の声だった。みくと同じぐらい、幼いものだ。 そして、傘に隠れていた素顔があらわになったとき、雅は言葉を失う。衝撃のあまり雨音が聞こえなくなる。 この学園に入学して早二ヶ月。外部から来た雅とはいえ、彼女の名前を知らないわけがない。 藤神門御鈴。 十三歳にして、醒徒会の、学園のトップ――。 最初に戻る 【双葉学園の大学生活 ~遠藤雅の場合~】 作品(未完結) 第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 登場人物 遠藤雅 立浪みく 与田光一 西院茜燦 逢洲等華 藤神門御鈴 水分理緒 エヌR・ルール 早瀬速人 登場ラルヴァ カラス 関連項目 双葉学園 LINK トップページ 作品保管庫 登場キャラクター NPCキャラクター 今まで確認されたラルヴァ
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子供の頃から父親にバカバカ言われて育って来ました。なので案の定バカになってしまいました。中学でグレて高校は中退。その後はギャングチームに入って調子に乗っていたら怖い人にボコボコにされて地元には住むことができなくなりました。そして一人で全く知らない土地で住むことになりました。そこで周りの温かい人の支えを感じながら生きることができました。そして人生が変わりました。しばらくは食品関係の工場で肉体労働をしました。そのかたわら何とか自分の人生をよりよいものにしようとさまざまなことに挑戦してきました。その代表が英語です。夜勤をしてためたお金で教材を買って勉強をしました。自分が使った教材スピークナチュラルの効果は絶大で、中学もまともに行っていない自分でも気づけば簡単な英会話ができるようになっていました。これには本当に驚きました。いつかこのことも両親にしっかりと報告をしたいと思います。まだ自分はバカなままなので親に合わす顔はありません。ですが、いつか、近い将来、必ず結果を出して胸を張って両親に会いに行きたいです。
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前のゲーム | 次のゲーム クリア条件:EDを見る 開始時間:2008/12/22(月) 22 16 37.01 終了時間:2008/12/23(火) 00 51 20.10 同名タイトルの漫画をゲーム化したもの。 内容はADV+RPGとなっている。 ビー・バップ・ハイスクールと似ているが、ケンカアクションの出来は格段にこちらが上。 一応ボクシング漫画ですから。一応。 操作 動作 十字キー 選択・移動 Aボタン 決定 Bボタン キャンセル START ステータス画面(自) SELECT ステータス画面(敵) ろくでなしがブルースを歌うゲーム ↑この一行を書く為だけにページを作成した人、怒らないから出てきなさい 1主です。 良ゲーだと思いますが、話が短いのが残念でした。 ラスボスは薬師寺 撃破 ED スタッフロール クリア後には他のキャラのシナリオが増えます。 主2です。 1主に遅れて前田編をクリア。その後、千秋編をプレイ。 サブキャラの目線でのショートシナリオでした。 (最初からポニテを切るところまで) 最後の2択でポニテを切らないとBADENDになります。 ポニテを切るとGOOD ENDです。 スタッフロールは前田編のものと同じと思われます。 1主です。 補完で小兵二編、中島編をしました。 スタッフロールは前田編と同じです。 小兵二編 いろんな人にボコボコにされ、 最期はこんな姿にw 中島編 井岡先生から風紀委員長として喧嘩を止めるように言われる ボロボロになりながらも目的を果たす
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影が薄いが意外に面白いモード。 ルール説明 乱闘のチーム戦版、レッド、ブルー、グリーン、イエローの最大4チームに分かれることができ 4対4や2対2対2ができる。 また初心者2人VS上級者1人のような使い方もできる。 基本的なルールは乱闘と同じ。 殴り合って、最後に生き残ったチームの勝ち。 制限時間までに2チーム以上残っていたり最後の人達がほぼ同時に死ぬとドロー。 一応チーム戦と体裁を取っているが普通に味方を攻撃できたり結構ガバガバ。 因みに勝利時はプレイヤー名ではなくチームのカラーが表示される。 一応野良でもマッチするが余り人が居ないので奇数になりやすく、人数差でボコボコにされる。 相当腕に覚えがある人しかお勧めしない。 (これを利用して複数人で野良に潜り野良をボコボコにするリンチブラザーズという奴らがいるとか...) ヒント 味方と一緒に敵に殴りかかるとフレンドリーファイヤで逆に不利になるので 人数有利の時は1対1で戦わせて味方がダウンしたりしたら助けに向かうのがいい。 もしくは道連れ。 バランス調整の為に人数を偏らせた場合は、道連れすれば勝ててしまうので禁止にするのが無難。
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BAN/失踪者 消えてしまった参加者について記載しているまた、一時的に消えて戻ってきた参加者も記載している。 まさと げりクラ1期の主役的存在。女癖が悪いビジネス陰キャ 【詳細】 一時期はげりクラの主役でまともだったがおみやとのカップリング まさおみてぇてぇを名乗り始めイキり発言が目立つようになる。 その後おみやと揉めて囲いのおじおじに責められトリヤキの援護射撃により失踪 その後ゴムケシとして復帰するも失踪 おじおじ アスペを自称していて相談役になるものの話に介入し時には邪魔になる存在 【詳細】 げりとの動画内での約束を破った為バンされた 追記 JCだったおみやを家に誘うなどもしていてヘイトを買っていた。 いちたん OPとして表では一定の好感を得ていた参加者 【詳細】 参加勢の女へのセクハラがバレそれと同時にGMCであおいりんく達と共に失踪 おみや 女参加勢みんなから一定の好感を得ていて仲のいい参加勢やOPが多い。 【詳細】 2度のメンヘラの病みによりTwitterを消して失踪しようとしたが現在も参加している。 あがが 一時期参加していたキッズ存在感はそこまでなかったが一応いた。 【詳細】 某マイクラ実況者の参加勢の文字アートを自作したと言うが嘘がバレてその後失踪 まさお みんなから一定の好感を得ていた元著名人。 実働は短かったものの爪痕を残した。 【詳細】 古参に虐められてポケモンアドオン企画でサンダーを盗まれて鉱石アドオン企画でメンタルが折れる前にげりクラから失踪 あおいりんく OPとコマンドと編集を両立していた参加勢だが性格に難がある。 また中々の古参であり色んな人達から認知されている。 【詳細】 GMC一期でげりの行動により失踪その後はむららと一緒に復帰 なまこ 歴代OPだと最強のオールラウンダーであり、あおいりんくの上位互換であり OPの人気投票をしたら一位間違い無しの伝説のOP。 【詳細】 GMC一期でげりの行動によりあおいりんく達と共に失踪 キリト 初期げりクラでおまらの次にイジられていたネタ枠 古参でもガチの古参しか知らない。 【詳細】 初期げりクラで虐められたがなんとか共存してたが終了後失踪 リムル 初期スーパーフラット計画でおまらと殺し合いを繰り広げ おまらの最強弓、5cm射精丸の餌食になった参加勢。 【詳細】 初期スパフラ計画にいたがその後失踪 はむらら 中立派のOPであり女も男も見境無く食いに行くヤバい人間だが 割とまともで一定の評価を獲得しているその為げりからの評価の高いOP。 【詳細】 GMC一期であおいりんくと共に失踪その後あおいりんくと共に復帰 きれん 多方面からヘイトを買っていて友達が少なく孤立していた おまらが友達を作る事を勧めるも作れなかった。 【詳細】 リアルの事情により失踪 とける げりクラ一期のまさとの部下であり著名、キャラクターは面白かった。 【詳細】 おまら、おみや達で他ディスコ鯖を荒らしまわるが、ネット引退に追い込まれて失踪 あまぴ 地雷女の様な感じで別界隈からげりクラに入って来て問題を起こしまくった。 最後の方では仲良くなりそうな感じだったが居なくなってしまった。 【詳細】 リアルの多忙により失踪 もうしご げりクラ2期に参加していた 【詳細】 理由は分からないが失踪。 ぺんぎん国 インフレゲリア企画で城を作り凄かったとにかく凄かった。 なまん国と同じオーラがあった。 【詳細】 インフレゲリア企画参加者。企画終了後失踪 ときもず げりクラディスコの優秀な管理者だったが別ゲーをしていて 管理する時間を作れなくなっていた。 【詳細】 別ゲーを優先する為失踪 hana 顔出しして人気になった参加者、マスコットキャラのような感じで 人気を獲得していた 【詳細】 GMC2期でなまん国にボコボコにされてきおると共に失踪 きおる Earth系からきた参加者でイキっていたが… 【詳細】 GMC2期でなまん国にボコボコにされて失踪その後名言きおるだお; ; が生まれた。
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初音ミク関連 11月はじめ頃、後輩の話から初音ミクの存在を知る。 saturation(@YouTube)でみっくみくにされる。 11月なかば、ニコニコID取得。 くじら12号にフルミックにされる。 こねこのろっくんろーぅに、それはもう、ボコボコにされる。 2008年1月なかば、「saihate」(sm2053548)中毒になる。 使用言語(得意な順に) Fortran 90 日本語 C# Java FORTRAN 77 Visual Basic .NET perl 英語(話せるのか?) C C++
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【作品名】予め決定されている明日 【ジャンル】小説 【名前】ケムロ 【属性】算盤人 【大きさ】ω次元では成人男性並、下層次元からは認識できない 【攻撃力】上と同じ 【防御力】上と同じ 【素早さ】上と同じ 【特殊能力】 ω次元世界の住人。 これより下層の次元(3次元世界)の存在はこれに干渉できない。 世界は算盤人達が行っている計算(シミュレート)そのものであり、ケムロ及び班長その他はその計算を読み解き改竄することが出来る。 要するに「ラプラスの魔」の強化版。 計算を改竄するなどして新しい計算問題を提示することは任意に世界を創造することと同義であるため、 ケムロのシミュレートする世界は計算に手を加えられる箇所の数(つまり無数)だけ並行宇宙が存在し得ることになる。 世界の全てはケムロ達が計算するようにしかならず、またその計算結果や経過を破棄して新しい結果を作ることもできる。 つまり、原理的にケムロ達は全ての1次多元世界に対する、時間を無視できる任意全知全能=常時全知全能であるといえる。 【長所】ω次元って何だよ・・・ 【短所】同じω次元の住人には多分ボコボコにされる 19スレ目 744 :格無しさん:2008/08/15(金) 13 05 44 ケムロ 【長所】高次元の存在で1次多元全能 【短所】一人の女会社員の人生を滅茶苦茶にした 14スレ目 87 :格無しさん:2008/04/28(月) 18 09 01 ケムロ考察 二次多元全能だから天照大御神と= 93 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 20 52 87 同じ階層のやつにはボコボコにされるなら天照にまけるんじゃないか? 94 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 21 51 アマテラスと範囲が同じなら 95 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 26 53 じゃあアマテラスに負けか 96 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 27 53 全能範囲同じなん? 97 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 30 02 どっちも無限×無限だろ? 98 :格無しさん:2008/04/28(月) 19 41 29 ケムロ再考察 同じ階層の相手には勝てない 天照>ケムロ 947 :格無しさん:2008/05/21(水) 14 49 28 ケムロ再考察 一次多元全能で、同じ一次多元全能に勝てない扱いなら ウルトラマンキングの下 ウルトラマンキング>ケムロ>エル・カンターレ イスカンダール再考察 一次多元全能なので自動的に ウルトラマンキング>イスカンダール>ケムロ
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ラノで読む(前後編通し、推奨) Scene 0 十年前、某所 既に日が落ちて久しい高速道路の闇の中、一台の黒い乗用車が走り抜けている。本来ならスピード違反と言っていい速度だが、周りには長距離トラックが少し見える程度で、それを咎める者は居ない。このあたりにオービスその他の速度検知器が無いことは確認済みであり、あったとしても、ナンバーから運転手の特定は不可能だ。 その車を運転しているのは、二十代の後半とおぼしき女性。長い髪を編んで一本に垂らしているのが見える。柔和そうな顔つきだが、その表情は暗い。膝には、小さなケースが一つ。他に乗員は居ない。 「ごめんなさい、結局、貴女しか救えなくて」 誰も居ない闇に向かって、女性が呟く。そして、誰も居ないはずのそこから、別の、若い少女のような声が帰って来た。 『い、いえ!! あなたさまが居てくれたお陰で、わたくしも生まれてこれたんですし、その、他の子たちも、きっと……』 「望んでもいない生を与え、望んでもいない任務を与え、その上役立たずとなったら、好き勝手な奴らにさらわれて唐突に野に放たれて。きっと、怨まれて当然よね」 『あの、あまりご自分を責めないほうが……』 「そうね、ごめん……あと心配なのは、あの人の再就職先、ね。あんなところに居たのだから、今更陽の当たる場所、というのは望みすぎかしら」 『……あの、娘さんは……』 少女が、話題を逸らすように質問をする 「……ええ。あの子には、ちゃんとした道を歩いてもらいたいものだけど。これからは、一緒に居られるから」 ほとんどの事象には、それが始まったきっかけがある。それは、自然現象であったり、何者かの本能であったり、あるいは、善意や、悪意だったりする。そして、一度回り始めた針は、回しはじめた本人すら想像出来ないような事態を招くことがある。 彼女が行ったことは、単なる良心の呵責によるものだったのだろう。その行為が、様々な人間を巻き込む針を動かしてしまうことになるとも知らずに。 禁域の姉弟、瑠璃色の針 Scene Ⅰ 朝、双葉区住宅街 彼は、夢を見たことがない。 大半の人は、そういう場合でも『夢を見たことを覚えていない』だけであり、実際は一晩で五つも六つも夢を見ているものだ。 だが、彼の場合は違う。ある研究者が、睡眠中の彼の脳波を調べたところ、睡眠直後に『夢を見ない、深い睡眠』であるノンレム睡眠に移行し、目覚めるまでそのままだったという。 それが、彼の特異体質と関わっているかどうかについては、まだ分かっていない。 ゆさり、ゆさりと身体を揺する振動で、意識が戻ってきた。 まるで風船に空気が入れられるように、体中の感覚が戻ってくる。それと同時に、自分の身体に何かが乗っている感覚が分かる。毎朝繰り返される、慣れた感覚だ。同時に、耳に聞きなれた声が響く。猫が懐いてくるような、甘い声。 「……ら、朝……よ……」 意識がはっきりする前に、少年がうっすらと目を開けた。 「ほら、久《きゅー》くん、起きてー、朝だよー」 彼の目線で一番初めに目に入るのは、白い膝上まであるソックスと、乗りかかっているせいで少し動いたら中が見えてしまいそうなミニスカートとの間でむち、と存在をアピールしている太腿《ふともも》。そこから目線を上げていき、小さな身体を包んでいるブレザーの制服の上で、いつも通りの笑い顔を見せている少女が見えた。 栗色の髪をピンク色のリボンで左右に束ね、それは彼を揺するたびにぴょこぴょこ動いている。灰色の大きな瞳は、楽しそうに少年を見下ろしている。五年経てばものすごい美人になる、と思えるような美少女だが、彼女が今『言った側が想定する五年後』の年齢だと知ると、ビックリするだろう。 「……今日の、ご飯は?」 「朝も昼もわたしだよ、だから早く起きるー」 マウントポジションを解除して、少女がベッドから飛び降りる。着地には物音一つなく、身のこなしも含めて、まるで体重が無い羽毛のようだ。 「……姉さん、その起こし方、目に悪い」 ベッドから身体を起こし、まだ眠気が抜けていない少年が文句を言うが、少女の方はどこ吹く風。 「だって久《きゅー》くん、あれぐらいしないと起きないし。それとも、もっとカゲキな方が良かった?」 「どっちの意味か分からないけどやめて。あと着替えるから出てって」 「はいはーい、ちゃんと一人でデキる?」 「何が」 「何でもなーい」 何事も無かったかのように少女が部屋を出て行った後、少年はため息をつく 「……はぁ、いつもこれだよ」 寝癖でぼさぼさになった銀髪を撫でつけている彼、安達久《あだち ひさ》と、出て行った少女、安達凛《あだち りん》の一日は、毎日こんな感じで始まる。 「おはよう、久。今日も起きるの遅かったわね」 「おかあさん、おはよー……」 「久《きゅー》くんも、朝弱いからねー」 制服に着替えて部屋を出る。部屋の外で待っていた凛と一緒に下りてきた久は、お茶を入れていた女性と鉢合わせた。安達遊衣《あだち ゆい》、二人の母親である。娘の凛と同じ栗色の髪を、こちらは三つ編みにして長く垂らしている。常に笑顔を絶やさない、大人の女性といった風貌だ。 「せっかく凛が作った朝ごはん、冷めちゃうじゃないの」 「だいじょーぶ、そこら辺分かってて作ったから」 寝ぼけ眼で椅子に座って箸を取りながら、久は母親の方を見る。何か違和感がある。その理由はすぐに分かった。 「おかあさん、時計どうしたの?」 彼女は、いつも首に時計をかけている。いつ見ても碧い光を反射する、確か瑠璃で出来ていた懐中時計。それを、今の彼女は身につけていない。 「……あら? 寝室かしら」 表に出さないが、元来、彼女も寝起きは得意ではない。けっこうな頻度で、娘の凛に朝食と二人の昼食である弁当を任せる程だ。今も表面上は普通だが、眠気の上にいつもの表情を被せているに過ぎない。 「ほら久《きゅー》くん、早く食べないと遅刻だよー。ママも、寝ぼけたまんま、お茶で火傷しないようにねー」 相変わらず寝ぼけ眼のままである久を、横から凛がせっつく。真面目に時間が無いのかもしれない 「あーい……」 半分眠ってる状態で白米を口に運ぶ二人を横目に、凛も食べ始める。この場面だけを見ると、ダメ息子とダメ母をうまくコントロールする娘に見えるかもしれない。朝に限って言えば、それは間違っていない 「んじゃ、行ってきまーす。洗い物はよろしくー」 「行ってきまーす」 「はい、行ってらっしゃい」 朝食を食べて少しは意識がはっきりした久と、食べても食べなくても元気な様子の凛を見送る遊衣が、一人で室内に戻ってくる 「おはようございます。えっと、勝手に洗い物しちゃいましたけど、大丈夫ですか?」 「あら、どこに……」 「寝室に置いてけぼりは寂しいです。お二人はもう出かけましたよね?」 「ごめんなさい。ええ、今出たところよ……どうしたの、何か気になることでも?」 「はい。前にも話したと思いますが、他の『みんな』が……」 「近場に、少なくとも『三人』居るところまでは分かってる。けど、そこで止まっているわ。悪い人たちに『使われて』ないといいんだけれど。もう少し、探してみましょう」 「はい、お願いします」 「けど、あの子をあそこに転入させるんじゃなかったわ……」 今更後悔しても遅い、というような事を遊衣が呟く 「おはよー、もこちゃん」 「おはようございます、お二人とも」 「おはよう」 ローテンションの久と、それを引きずってきたハイテンションの凛が、目の前を歩いていた女性に声をかける。二人よりも頭一つは大きい長身だ。 豊川《とよかわ》もこ、最近近所に引っ越してきた『お隣さん』である。何かと母親が世話を焼いているのと、彼女が久と同じクラスということで、いつの間にか仲良くなっている。 そう、この長身の女性は、中学二年の久と同学年なのだ。大学生と言われても通じるというのに。 「まだ安達様は、目が覚めていないんですか?」 「いつもの事だからねー、学校に着くころにはハッキリしてるんじゃない?」 久を二人で引きずる形となり、連れ立って歩いていく三人。三人が通う学校は、途中でバスに乗り、十数分ほど行ったところにある。 双葉学園中等部、及び高等部。彼らが通っている学園の名前であり、普通の学校とはかなり違う側面を持つ。 双葉学園、東京湾に人工島を造り、そこに作られた巨大な学園。島自体も東京都の特区『双葉区』として独立している学園都市だ。そこに集められた小学生から大学生、さらに大学院生は、通常の教育とは別に、ある事を教えられている。 人類の敵を排除する為の技術。 そもそも、ここに集められている子ども達は、基本的には何らかの、人とは違った『ちから』……それらは異能と呼ばれている……を持つ、異能者と呼ばれる存在である。 ここ二十年の間に(これまでの水準から見れば)大量に生まれた彼らは、同じく二十年前から出現の頻度を増している怪物、ラルヴァと呼ばれる存在から人々を守るために、密かに集められ、教育を受けている。世界各国でそういった活動は行われており、ここ日本では、双葉学園がそれを行っている。 その双葉学園の中で、安達久、凛の姉弟は、明らかに浮いていた。 Scene Ⅱ 午前中、双葉学園 その日午前、中等部二年F組最後の授業は、異能力講義の授業だった。未だ異能力に目覚めていない、もしくはうまく扱えない学生向けの授業である。そしてその授業に、安達久はまったく身が入っていなかった。その時も、何か話している教師の声に耳を貸さずにぼーっと窓の外を眺めていた。眼下には運動場が広がっているが、そちらではなく、呑気に雲を浮かべている空のほうを。 「安達様、どうかなさったのですか?」 後ろの席から、豊川もこのせっつくような声が聞こえる。 「うん。僕にはあんまり、関係ない話だなぁって」 「……まったく、そういう事言ったらダメですよ?」 彼の返答に、もこは困ったような顔をして授業に戻る。彼女も、事情のほうは知っているのだろう。もこの他にも、何人かの友人はそのことを知っている。 まず一つめ、安達久はまだ自らの異能に目覚めていない。それ自体はそれほど珍しくはなく、けっこうな数の学生が、異能の素質がありながら使い方に目覚めなかったりする。 二つめ、異能を使うのには、魂源力《アツィルト》という体内に宿る何らかのエネルギーが必要なことが、一般的に(双葉学園などの異能者組織などでは)知られている。異能を持っている者は、多かれ少なかれそれを持っており、異能を使うことで消耗する……と、言われている。 三つめ、久にはある特異体質がある。魂源力が、体内にまったく存在しないのだ。異能を持たない者には魂源力があるのかどうか、そのあたりの調査はまだしっかりと進んではいないため、健康に問題があるかどうかといったことは分からない。 だが、これだけは言える。二つめと三つめの併せ技で、彼は異能をまったく使えない。いわば、異能に目覚める望みがまったくのゼロなのだ。それが、この授業に今ひとつ身が入らない理由である。姉が異能者でなければ、ここに入学することも無かっただろう……が、ここでもう一つ、謎がある。 家族でここに引っ越してきたのは、姉に大量の魂源力があると判明した十年前だという。だから、自分は小学校から双葉学園に通っているはずなのだが……久には、その記憶が無い。 それどころか、父親が亡くなったという三年前より前のことを、まったく思い出せないのだ。思い出せる一番古い記憶は、自分がベッドに寝ていて、その近くで姉と、黒い服を着た母ではない女性が、突っ伏して寝ているところだった。その時は何が何だか訳が分からず、襲ってくる眠気に押されるまま眠りなおしてしまい……次に起きたときには、姉と母が心配そうに覗き込んでいた。その二人が姉と母だというのも当人から聞いた話だが、流石にそれは疑っていない。昔の記憶にしても、たまに『あの黒い服の女性は誰だろう』とか『おとうさんの顔って、どんなのだろう』と疑問に思うぐらいである。 なぜか、学校で習っていた勉強などは忘れていなかったようで、学力で落ち込むといったことは無かった。しかし、記憶喪失は記憶喪失だ。思い出が無い、というのは少し寂しい。 そんなことを考えているうちに、授業が終わる。昼休み、中等部は希望者に給食が出たりするが、弁当を持ってきたり、学食を使う学生も多い。姉や母が弁当を作ってくれる久や、自分で作っているという、後ろの席のもこもそういったメンバーの一員だ。 「もこー、今日はセンパイに昼食持っていく日だっけ?」 「まったくラブラブよねー」 「ち、違います!! 私が勝手に押しかけてるだけで……」 「この前覗いてみたけど、まんざらじゃなかったんじゃない? あの人も」 後ろで騒いでる女子たちを尻目に、自分の鞄を探る、が 「……あれ?」 普段入れているはずの弁当箱が無い。というか、入れた記憶が無い。これは記憶喪失とは別問題だ。 「なに、弁当忘れたって?」 「お前の弁当楽しみにしてる奴居るの忘れんなよー」 「……姉さん、持ってるかなぁ」 後ろから野次が飛んでくるのを無視して立ち上がる。姉が担当の時は、勝手に弁当の中身を食う(そして久も反撃で相手の弁当から拝借する)友人からの評判が良いのだ。母のときは普通。 (姉さんのクラスまで、結構歩くんだよなぁ) この時の忘れ物が、その生まれにも関わらず平穏に過ごせたかもしれない、彼の運命を大きく変える事となる。 高等部三年G組の女子達が更衣室を出てくる。午前の最終授業である体育が終わり、体操着から着替えてきたのだ。その中には、安達凛の姿もある。 「というか、バレーでそれだけしか背丈無いのに、なんであんな活躍できるの? ありえないって普通」 「流石はわれらが委員長さん、ってとこだよね」 「へへーん、もっとわたしを褒めなさーい」 「偉ぶるのは、もっとその背を伸ばしてからにしな」 「あーでも、凛みたいになれるなら、その背丈でもいいかなぁ……」 「それはビミョー」 「自分で言うのも何だけど、この背は欲しくないよねー」 女子の一団が教室へと向かい、その中央で凛が楽しそうに歩いている。 凛は、このクラスのクラス委員であり、言ってみればクラスの女主人公《ヒロイン》である。学業は学年トップクラスであり、その体型に似合わずスポーツも万能。更に、リーダーシップに関しても今年度初めに起こった『悪夢の四月』事件で証明されている。 三年Y組の担任及び生徒数人が突然自殺、その後何の前触れも無く学生達が昏睡状態に陥るという、何もかもが謎尽くめの事件の中、彼女はクラスの皆にこう言っていた。 『わたしが委員長なんだから、大丈夫だいじょうぶ……え、根拠が無い? 大丈夫だ、って思ってれば大丈夫だよ。根拠なんて無くても問題なし!!』 そんな彼女の影響か、悪夢のような一週間の中でも三年G組は明るさを失わず、事件(?)そのものと無関係でいられたのだ。 その容姿と底抜けに明るい性格とで、『明るすぎて鬱陶しい』という声はあっても、嫌いという声はめったに聞かれない。女子からは頼れるリーダー兼愛玩動物として可愛がられ、男子からは『もうちょっと背丈があればお付き合いして欲しいんだけどなぁ』と残念がられる具合である。 そんな彼女にも負い目はある。否、その負い目があるからこそ、今の彼女があると言った方がいいだろうか。それは、彼女の異能である。ある意味では『異能に目覚めることが無い』弟よりも残酷な異能の持ち主であり、そのせいで異能に目覚めた当初は、かつて存在した異能分類『カテゴリーE』……あってもなくても意味が無い、ダメ異能者の烙印を押されたこともある。周りに迷惑をかけないので『|カテゴリーF《やっかい者》』扱いは避けられたものの、怪物と戦う戦士としては失格だ。 だが彼女は、そこでへこたれなかった。異能者だらけのこの学園で『普通の生徒として輝く』道を模索したのだ。 勉強に、スポーツに、一生懸命打ち込んだ。身体こそ小学生と中学生の間ぐらいから成長しなかったものの、その分は努力と、不思議な運でカバーした。異能のことで、もしくはその背丈のせいでいじめられる事もあったが、それも学生としての優等生っぷりと、持ち前の明るさで『敵よりもずっと多い味方を作る』もしくは『敵を味方にする』ことで見返してきた。 高等部卒業後は、大学部の法学部へ編入することが決まっており、その後の目標としては、外郭団体であるALICEで、『ほぼ未能力者』として、異能者の皆を影に日向にサポートする仕事ができれば……と、考えている。 といった事は普段あまり考えず、凛は青春を謳歌していた。 「今日って、凛がお昼作ったんだっけ?」 「そーだよー」 「「おおー!!」」 こちらの教室でも、彼女が作った弁当は好評である……そしてやはり、母親作は普通。 「私たちゃ、凛のおべんとが楽しみで昼休みやってるようなもんだから」 「流石にそれは大げさだよねー……ん?」 まんざらでもなさそうな表情の凛が、不意に顔をしかめる。 「どしたの?」 「今、なんかあっちの方で音しなかった?」 「ううん、聞こえなかったけど……」 凛が向かいにある校舎の影を指差すが、他の女子は首を振る 「……なーんか気になるなぁ。みんな、先戻ってて、わたし見てくるから」 「それはいいけど、昼休み中には帰ってくるんだよー」 「うん、分かってるー」 女子の一団から別れて、凛が一人だけそちらに駆け出す。 この時の決断が、彼女の青春に、これまで無かったページを付け加える事となる。 学園の片隅で、二人の女性が密談をしている。 「やっぱり、このあたりで『昇華』したことがあるのね?」 「はい。『軸』は、数ヶ月前だと思います。もっと新しいものだと、建物の中で気配がしますが、それでもやはり数ヶ月前の出来事なのには変わりはありません」 「……コーラルちゃん」 二人のどちらでもない名前を呟き、二人の女性が立ち止まる……それを狙い済ましたかのように、気配が動いた。 「お母様、上!!」 「え……!?」 直後、戦闘が始まった。否、それは戦闘と呼べるものではなく、一瞬で終わってしまった。 Scene Ⅲ-Ⅰ 昼、双葉学園 「このへんかなぁ……」 安達久は、わざわざ校舎の外で姉の凛を探していた。長い距離を歩いて高等部の姉が居るはずの教室まで行くことには行ったのだが、その姉のクラスメイトが 『弟くんだー、凛なら寄り道してるよ。多分校舎裏の方だと思うけど』 という事態に。流石に姉の鞄の中をひっくり返すのも気が引けたので、素直に先輩達が姉と別れたという場所の周辺を探している。 時間は昼休み、校舎一つ隔てた向こうではいろんな人の騒がしい声が聞こえる。だが、このあたりにその声は無い。校舎どうしの間隔が近く、影になっているこのあたりは、びっくりするほど静まり返っている。 (なにか、変だな) 彼が何かしらの違和感を覚えたその時……それと同じタイミングで、目の前から無言でこちらへ走ってくる影が見えた。そして『見えた』と思った次の瞬間には、あっという間に懐に飛び込まれ、抱きつかれる 「きゅ、久《きゅー》く~ん!!」 「……姉さん、何してるの」 「しーっ!! 久《きゅー》くん、声おっきい」 久の胸に飛び込んで、まるで小動物のように怯えている凛。朝の不敵さや、同級生に見せていた明るさは見えない 「ちょっと、こっち来て、そーっと、そーっとね」 そう言って久から離れ、凛がその手を掴んでゆっくり来た道を戻る。ちょうど奥が見える、角になっている所まで連れて行き、そこで立ち止まった。 「ほら、あそこ……」 角のところを覗くよう促され、久はそこから少しだけ顔を出す 「なに、一体……!?」 そこに見えたのは、ありていに言えば『化け物』だった。 見えた影は二つ、どちらもヒトの背丈よりも大きい巨大な獣のように見えるが、その姿がどちらも明らかにおかしかった。少なくとも、自然の動物ではあり得ない 一体は、獰猛な肉食獣を連想させる頭に、上半身『だけ』の怪物。四足歩行動物の、腹のあたりで綺麗に切断されたようになっており、その切れ目から貧弱な後ろ足が出ている。もう一体は、猛獣の下半身『だけ』の怪物。逞しい後ろ足に比べ、上半身だけの怪物と同じように切断面から出ている足は貧弱だ。ちょうど二体くっつければ、丁度いい姿をした、とても巨大な獣になるだろう。まるでコールタールのような真っ黒い体毛に覆われている。何かを探していながら、それが見つからずに困っている……二体とも、そんな動きをしていた。 「らら、ラルヴァだよね、あれ……」 「……たぶん」 目の前で震えている凛を見て、久は思い出した。 普段は自信満々で、世界を敵に回したって大丈夫と言わんばかりの雰囲気を出している彼女にも苦手なものはある、その一つが『ビースト型ラルヴァ』だという事を。他タイプのラルヴァや、実際の動物は大丈夫らしい。『微妙にヘンなのがダメ』とは本人の台詞だが。昔、何かがあったらしい……記憶を失っている久には、それが何か分からないが。 「早く風紀委員に連絡しないと……」 久はポケットから学生証を取り出そうとする。風紀委員への通報は、ラルヴァを発見した学生の義務だ。が 「……あ、あれ?」 無い。常に携帯するべき学生証が無い。どのポケットを探しても見つからない (そうだ、鞄の中だ) 肝心のそれは、鞄の中に入れっぱなしなのを思い出す。すぐ戻るものだと思って、持って来るのを忘れてきてしまったのだ。 「……姉さん、学生証ある?」 「う、ううん。さっき体育でそのままこっち来たから」 混乱している姉を横目に、久はどうするべきか考える。とは言っても、異能を持たない自分と戦える異能を持たない姉だったら、選べる道は一つしかない 「今すぐ逃げるよ、誰かに通報して、助けを呼ばないと」 「ダメっ!!」 「なんで!?」 理解不能な凛の一言に、久は戸惑いながら返事を返す 「……わたし、見たの。あいつらが、女性と戦ってて、その人があっちの方に吹き飛ばされたの……その人は、ママそっくりだった。ヤツラは見失ってるみたいだけど」 「……!?」 母がなぜここに。そんな事を考える余裕は無かった。 「飛んでいった方向なら、ここから回りこめる」 「……あ、そっか。そして、こっちから一緒に逃げれば」 「そういう事。急ごう、誰かが巻き込まれているなら、おかあさんでもそうでなくても、放っておけない」 そこに至るまでの道のりは、あっけないほど簡単だった。校舎の影に隠れて進み、気を失って倒れているその女性……やはりそれは、二人の母親である安達遊衣だった……と、その横に連れ立って座っている、黒衣の女性に遭遇した。 その女性は、妙な出で立ちをしていた。 黒いブラウス、黒いスカート、黒い長手袋という黒一色の、まるで葬式に参列するかのようなブラックフォーマルの服装。光が宿っていないように見える真っ黒の瞳は、心配そうに伏せられている。軽くウェーブがかかった黒い髪に、純白の大きなリボンが飾られているのが目を惹く。 その女性が、こちらを向いて驚いた声をあげる。 「り、凛ちゃんに、久さん!?」 そしてその鈴が鳴ったような声も、姿も、二人にとって覚えがあるものだった。 「家政婦さん!? なんで……」 「……もしかして、あのときの?」 久の記憶に残る一番古い映像、自分が寝ていたベッドの近くで寝ていた女性と、目の前の女性は明らかに同じ姿をしていた。この様子だと、凛も見覚えがあるようだ。 「なんでこんな所に居るのか、という説明は後回しでお願いします。お二人とも、早く逃げて。見つかってしまいます!!」 「駄目、おかあさんを放って行けっていうの!?」 「……私たちは、ここから動けません。あそこに居るモノが、見えますよね?」 久の言葉に首を振った女性が指差した先には、先ほどからここを探している二体の怪物の姿が見える。二人はゆっくりと頷いた 「お母様が仰っていたのですが……あれは、目標の生体データを記録して、目標が動くのに併せてそれを自動追尾するらしいです。逆に目標が動いていないときは、どこに居るか分からない、と言っていました。私とお母様は見張られていますけど、動かなければしばらくは安全です。今のうちに、お二人だけでも逃げてください」 「駄目、ママを置いていくのなんて、そんなの……」 「僕も同じだよ。でも、どうしよう。僕も姉さんも、戦う力なんて……」 立ち去ることは出来ない、しかし、戦う術は無い。途方に暮れる二人に、黒衣の女性が口を開く 「……力だけ、ならあります。けれど、それは使えない」 後編へ トップに戻る 作品保管庫に戻る